県が運営する造園の職業訓練校で造園の授業中に高さ3m以上の脚立から落下し頸髄損傷となり県と1800万円で和解が成立した事例(業務災害)

事例概要

ご依頼者50代男性
事故状況脚立から落下した業務災害
傷病名頸髄損傷、第2頚椎脱臼骨折、四肢不全麻痺、軸椎破裂骨折、神経因性膀胱、膀胱直腸障害
後遺障害等級併合7級
最終獲得金額1800万円

事故の概要及び障害の内容

本件事故は、県が運営する造園の職業訓練校において、訓練生として高木の剪定の授業を受けていた際に、高さ3m以上の脚立を用いて立木の剪定の作業実習を行っていたところ、誤ってバランスを崩して脚立から(3m以上の高さ)より落下した事故です。

労災事故発生後、依頼者は治療を行いましたが、頸髄損傷、第2頚椎脱臼骨折、四肢不全麻痺、軸椎破裂骨折、神経因性膀胱、膀胱直腸障害等の診断がなされました。依頼者の両上肢に痙性麻痺及び感覚鈍麻が出現し、膀胱直腸障害も発生し、運動性、支持性、巧緻性などの麻痺が残存しました。 

CT及びX線所見により第2頚椎脱臼骨折により第2~3頚椎にせき柱固定術が行われ、頸部の主要運動である屈曲・伸展・回旋の運動可動域がそれぞれ参考可動域角度の1/2以下に制限されていることから、せき柱の運動障害として障害等級第8級の2「せき柱に運動障害を残すもの」の後遺障害が認定されました。また、頸髄損傷に伴う神経系統の機能障害として障害等級第12級の12「通常の労務に服することはできるが、せき髄症状のため、多少の障害を残すもの」の後遺障害が認定されました。

本件は2つの障害を併合し、せき髄症状のため、軽易な労務以外には服することができないものに該当することから、障害等級併合7級の3「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することが出来ないもの」として判断されました。

ご相談のきっかけ

依頼者は、病院において、頸髄損傷、第2頚椎脱臼骨折等の診断を受けたことから、労災保険による後遺障害の認定を受けられるか、適正な後遺障害の認定を受けられるかが心配であったため、相談にこられました。

当事務所において、ご依頼者の自覚症状(両上肢の痛みや麻痺及び感覚鈍麻、膀胱直腸障害、頭痛、毎日痛み止めの服用、車の運転ができなくなった)を整理したところ、適正な賠償金を獲得するための前提として、労災保険から実態に合った後遺障害の認定を受けることが重要であると考え、後遺障害の認定をサポート依頼されました。

診断書の作成に当たり必要な医学的検査の実施依頼及びこれらの所見の記載、神経学的検査及び所見の記載、自覚症状が適切に診断書に反映されているか等をサポートさせていただくことになりました。

ご相談及び弁護活動のポイント

労災保険の後遺障害申請は、治療終了時(症状固定時)に医師に診断書(後遺障害診断書)を書いてもらうことになります。この診断書に医学的な所見、検査結果を記入してもらうこと、その前提として必要な検査を受診しておくことが重要です。

そこで、当事務所から神経学的検査を受診、可動域測定、せき髄損傷の画像所見について診断書(後遺障害診断書)に記載してもらうように、ご依頼の文書を作成し、医師に対して手渡してもらいました。

それでも、神経症状(上肢の痺れ、温痛感覚の消失)機能障害(首にプレートをいれているので首を動かせない、肩やひじ、手首の動きが悪い)感覚障害(首の手術痕周辺は触られても間隔がない、体感温度の消失)尿路障害(尿意や便意はわかるが、トイレでは尿や便を出したのかわからない(感覚消失)、下着を汚す)等の症状が診断書(後遺障害診断書)には明記されていませんでしたので、これらの症状を補充するため、当事務所で労働基準監督署宛の意見書を作成し後遺障害の申請をしました。

また、労災保険に後遺障害の申請後、依頼者へ面談の案内が届きましたので、面談時の注意点等を事前にアドバイスを実施しました。その結果、労災保険において後遺障害等級併合7級の認定が行われました。

福岡県との示談交渉及び裁判の結果

本件事故は、前日の天候も雨であり、剪定をするには脚立を設置するための地面が濡れており、高木の剪定を行うにあたり転落を予見することができたこと、訓練時に安全帯の装着指示等がなかったことから、頸髄損傷等の怪我をされ、後遺障害等級7級相当の障害が残存したことから、安全配慮義務違反があるとして損害賠償請求を行いました。

しかし、県の回答として、本件事故は依頼者が講師に無断で脚立を移動させたこと、依頼者自身で設置した脚立の固定が不十分であったことなどを理由に請求に応じることはできないというものでした。県側が全く非を認めず、訴訟外での話し合いは困難となりましたので、訴訟提起を行いました

裁判においては、被告(福岡県)は、剪定による転落は原告(依頼者)自身の過失であること、当日の状況を踏まえた上で訓練に支障がないと判断しており、問題はない等主張しておりました。

しかし、当職において、2mを超える高所作業においては、労働安全衛生規則518条によって、「事業者は、高さが二メートル以上の箇所(作業床の端、開口部等を除く。)で作業を行なう場合において墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない。2事業者は、前項の規定により作業床を設けることが困難なときは、防網を張り、労働者に安全帯を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。」という規定に基づき、県の剪定の実習の方法は同規定に違反しており、安全配慮義務を県側が負っていたにもかかわらずそれに違反したことを詳細に立証しました。

また、授業で使用する脚立(6~8尺)の1.5倍の高さの脚立を事故当日に使用していたこと、初めて使用する脚立について、使用方法、注意すべき事項、これまでに授業中に使用した脚立との違いを説明していなかったと安全指導にかかる過失や、安全帯の着用義務の指摘、実習時の補助を行うべきだったと主張し、裁判所から理解を得られております。

裁判においても、被告(福岡県)は、県が責任を負わないため、そもそも支払義務はないとの主張を貫いていましたが、当職において被告の安全配慮義務違反、依頼者の損害等を主張立証することで、裁判所は県側の責任を認め、福岡県は依頼者に1800万円を支払うとの和解が成立しました。

原告(依頼者)も今回の事故でお身体に後遺障害が残り、非常に不自由な生活をされておりましたが、適正な賠償を得られたことで本当によかったと満足をいただけました。

当事務所からのコメント

今回は福岡県という自治体を相手にした裁判でした。高所作業による転落、墜落事故は労働災害ではよく生じ得る事故態様です。当事務所でも高所作業による転落、墜落事故の案件を何度も経験しておりますが、自治体側(会社側)は、転落したのは専ら本人の責任であるとして、一切の賠償を否定してくることが多いといえます。

このような場合、労働安全衛生規則の条文や厚生労働省による会社側への指導規程など立証し、いかに裁判官に会社(自治体)に責任があるかを理解してもらうことが重要となります。自治体(会社)側の法令違反を見つけ出し、法令違反を基礎にした主張を行うことが重要となります。

労災保険の治療中でも今後のことにご不安を感じている場合、当事務所に相談をいただくことで、労災保険の制度の説明や後遺障害の認定制度の説明、ご自身の症状が後遺障害に該当する可能性があるのか等お伝えをさせていただいております。

労災事故を専門的に扱う法律事務所は多くないところ、当事務所では、本件の高所作業中の事故など、労災事故では、かなり多くの事例を取り扱っておりますので、高度かつ専門的なアドバイスをさせていただくことが可能です。

また、ご依頼された場合には、労災保険への後遺障害申請は、弁護士が行いますので、被害者の方ご自身では難しいようなそれぞれの症状に適合した後遺障害の認定をお手伝いさせていただくことができます。

会社(自治体)との賠償金の交渉では、会社(自治体)は自らの非を認めないことがほとんどですので、交渉は困難であることが多く、裁判等の手続きを取らざるを得ないこともあります。当事務所としてもできるだけ裁判ではなく示談交渉で解決したいと考えておりますが、本件も同様ですが示談交渉の段階では0円提示でしたので、このような場合には裁判という手段が被害者の方の救済にとってとれる唯一の手段となります。裁判は一定の時間がかかりますが本訴のように裁判所において損害額を認定してくれる場合、結果的には裁判という手段をとって本当によかったと言われる方が多いです。

当事務所への相談方法は、お電話またはLINEから申し込みをいただくことが便利です。労災事故に遭われた被害者の方はお気軽にご相談ください。

当事務所では弁護士の先生向けの労災相談もしておりますので、弁護士の先生で労災事故の相談や依頼を受けたが、どのように対応してよいか分からない場合、当事務所にご相談をいただくことも可能です。