労災補償と損害賠償請求について
労災に遭いました。休業中の収入は補償されますか?
労働者が、業務上の事由または通勤が原因となった負傷や疾病のため労働することが出来ず、休業せざるを得ない場合、休業中の所得を保障するための制度があります。
業務災害の場合は休業補償給付、通勤災害の場合は休業給付が支給されます。
休業補償給付は、休業した第4日目以降から支給されます。
給額は以下のように決められます。
1)休業(補償)給付=給付基礎日額の60%箕休業日数
2)休業特別支給金=給付基礎日額の20%算休業日数
休業初日~第3日目の期間を、待期期間といいます。待期期間の3日間は、連続していても断続してもどちらでも構いません。業務災害の場合、この期間は事業主が労働基準法の規定に基づく休業補償(1日につき平均賃金の60%)を行います。これに休業特別支給金が加算されると、実質の休業補償給付は80%となります。
ただし、通勤災害の場合は、待期期間に休業給付は受けられないので注意してください。
もし、通院のために、労働者が所定労働時間のうち一部を休業した場合は、給付基礎日額から実際に労働した部分に対して支払われる賃金額を排除した額の60%に当たる額が支給されます。
「休業補償給付請求書・休業特別支給金支給申請書」(様式第8号)に、必要事項を記入し、事業主および治療担当医師の証明をうけて、労働基準監督署長に提出します。休業した日数分をまとめて一括請求するのか、または分割請求するかは、労働者が自由に選択することが出来ます。休業が長期間になる場合は1カ月ごとに請求するので、労働者の方は忘れないようにしてください。
*厚生労働省・都道府県労働局·労働基準監督署「労災保険休業(補償)給付傷病(補償)年金の請求手続」
損害賠償(政府保障以外に受けられる補償)について
広く一般には知られていないのですが、労働者は労災保険給付だけでは不足する部分を、事業主に対して損害賠償請求を行うことが出来ます。損害賠償請求の際、労働者は「業務と災害の因果関係・契約上の義務違反の事実」を立証する必要があります。
一方、事業主は「事業主には責任がないこと」を立証しなければいけません。安全配慮義務違反による損害賠償は、立証責任の観点で、事業主の方の負担が大きくなります。
安全配慮義務違反ではなく、不法行為を根拠とする損害賠償請求もあります。その際、労働者は被害者として事業主に故意・過失があったことを立証する必要があります。
安全配慮義務違反による損害賠償
安全配慮義務とは、労働契約上の付随義務として、使用者(事業主)に課せられた義務を言います。そして、労働者は、作業における危険を回避するための作業管理や労働環境設備の整備を怠った事業主に対して、安全配慮義務違反として損害賠償を行うことが出来ます。
また近年では、パワハラや長時間労働・過労死における安全配慮義務違反による損害賠償請求も増加してきています。労働者・事業者共に、安全配慮義務の内容・安全配慮義務違反の事例の確認をすることをおすすめします。
不法行為による損害賠償
一般的な不法行為に基づく損害賠償責任は、故意または過失によって他人の権利を侵害した者が、生じた損害を賠償する責任を負います。
不法行為が成立するための要件は、以下の4点です。
1)故意または過失が存在すること
2)他人の権利を侵害したこと
3)損害が発生したこと
4)行為と損害との間に因果関係が存在すること
事業主に対し不法行為に基づく損害賠償責任を請求する要因としては、使用者責任(民法715条)を根拠とすることが多いです。
使用者責任とは、事業主は、従業員が業務の執行において第三者に加えた損害を賠償する責任があることを言います。
使用者責任が成立するためには3つの要件があります。
1)使用・被用の関係が存在すること
2)その被用者の行為が民法709条の不法行為の要件を満たしていること
3)その損害が事業の執行につき加えられたものであること
近年では、セクハラ事案において使用者責任を問われることが増加しています。
一般的には、不法行為責任は3年で消滅時効にかかってしまうため、使用者の安全配慮義務違反を指摘して損害賠償を求めることが多いと思います。
労働災害に遭った時、慰謝料請求には種類があるの?
労働災害における慰謝料請求とは、精神的な被害を被ったことに対する損害賠償金のことをいいます。労災保険では、精神的な損害に対する慰謝料等は補償されないため、これらの労災保険で補償されない損害については、民事上の損害賠償請求により勤務先等に請求することになります。
労働災害に関する慰謝料請求には、3種類あります。
死亡慰謝料
解体中の建物の一部が落下、作業をしていた作業員が下敷きになり死亡。というような痛ましいニュースをお聞きになったことがあると思います。
ご家族が、このように業務中に事故に遭って死亡した場合に、遺族に支払われる慰謝料のことを死亡慰謝料と言います。相場は、裁判基準で定められています。
・被災者が一家の支柱の場合・・・2800万円
・被災者が母親、配偶者の場合・・・2500万円
・被災者がその他の場合・・・2000万円2500万円
そしてこの死亡慰謝料は、被災者がその家庭でどのような立場にあったかによって金額差が出ます。
また、死亡事故の場合は、被災者の近親者も被災者を亡くしたことによって精神的苦痛を被ることも考えられます。そのため、近親者固有の慰謝料が認められる場合もあります。
後遺症慰謝料
工場内において、プレス機械で加工作業をしていた際、スライドが誤って下降し、労働者の指が切断されるという事故をニュースなどでお聞きになったことがあると思います。
このように、手指・腕・足などを切断する事故の場合、後遺障害が残り、一生不自由な生活を強いられます。
後遺症慰謝料とは、後遺障害を負ったことによる苦痛に対する慰謝料のことです。労災によりり認定された後遺障害等級に応じて、相場は以下のように考えられます。
- 第1級・・・2800万円・第2級・・・2370万円・第3級・・・1990万円
- 第4級・・・1670万円・第5級・・・1400万円・第6級・・・1180万円
- 第7級・·1000万円・第8級···830万円・第9級···690万円
- 第10級・·550万円・第11級···420万円・第12級・・・290万円
- 第13級・・・180万円・第14級・・・110万円
入通院慰謝料
労災事故により怪我をして、入院や通院を余儀なくされたことに対して、被った精神的、肉体的苦痛に関する慰謝料を言います。相場金額は、入院期間と通院期間を目安に算出されます。傷害慰謝料とも呼ばれます。
労働災害における慰謝料請求が増額される場合って?
前述のように、労働事故により死亡・後遺症が残るなどの、労働災害における慰謝料の計算には、一定の相場があります。
しかし、案件によっては、相場よりも高額になる可能性が3通り考えられます。
被災者の精神的苦痛がより大きいと思えるような場合
具体例としては、「死亡事故後、遺族に対して暴言を吐いた」「事故発生時、被災者を助けなかった」「原因が会社の違法な業務だった」などが考えられます。
このように、被災者本人・遺族、被災者の介護をする親族の精神的負担が大きいと考えられる場合に、増額される可能性があります。
被災者側に特別な事情があった場合
具体例としては、「妊娠中の女性被災者が、労働災害によって生じた傷害により人工中絶を余儀なくされた」「労働災害によって外見が大きく変貌し、婚約破棄された」「労働災害によって生じた傷害により仕事を続けることが出来なくなり、将来の夢が潰えた」などが挙げられます。
その他の損害賠償の項目を補完するような場合
算定が困難なものを補完するという意味で、増額される可能性があります。具体例としては、「障害等級は認定されなかったが、業務に影響がでると思われる怪我の場合」「将来的に手術を行う見込みはあるが、現時点ではいつ行うのか、費用などの詳細が分からない場合。また、その際の休業損害が算定できない場合」などが挙げられます
また、このように相場よりも増額される可能性がある場合でも、被災者や遺族が、主張をしなければ慰謝料が増額されることはそうありません。そして、主張する場合は、被災者や遺族が慰謝料増額の理由となる主張・立証をしていくことが必要となります。
そのため慰謝料請求を検討される方は、まずは労働事故に精通した弁護士に相談してみることがおすすめです。弁護士は、被災者・遺族の労働災害の事情から、慰謝料相場・慰謝料の増額可能性があるかどうか判断してくれます。そして、適切な慰謝料を得るためには、弁護士の助けが必要になると思います。
当事務所の弁護士は、労働事故における損害賠償・後遺障害などにも精通していますので、一度ご相談ください。