労働災害への事業者の向き合い方

休業の1~3日目は事業主が補償責任を負う

労働災害により労働者が健康を害した場合、事業主には労働基準法に基づく補償責任が発生します。しかしここで事業主が労災保険に加入している場合は、労災保険から給付が行われ、事業主は補償責任を免れることができます。事業主の強い味方、それが労災保険です。
ただし労災保険にも給付条件があり、休業する1日目~3日目に関するものは補償されません。したがって、この期間については、事業主から労働基準法で定める平均賃金の60%を直接労働者に支払わなくてはなりません。

事業主が負わなければならない安全配慮義務とは?

安全配慮義務は、事業主が、労働契約の当事者として労働者が安全に就労するために負うものです。
安全配慮義務の具体的内容は次の2点です。

1)労働者の利用する物的施設・機械等を整備する義務
2)安全等を確保するための人的管理を適切に行う義務
a)危険作業を行うための十分な資格・経験を持つ労働者を配置する義務
b)安全教育を行い、あるいは危険を回避 するための適切な注意や作業 管理を行う義務

事業主がこの安全配慮義務を怠ったことで労働者が労働災害の被害者となった場合、事業主は労働契約違反として、民法上の損害賠償責任義務を負います。
さらに、事業主が労働基準監督署に報告しなかった場合や、虚偽の報告を行った場合にも、刑事責任が問われる可能性があります。事案によっては、刑法上の業務上過失致死傷罪等に問われることもありますので注意が必要です。
また最近では、民事上の損害補償と労災保険は同時に請求されるケースが増えてきています。それに伴い、施設の管理や労働者の健康管理についても安全上の措置を促す一般的な義務を有していると判断され、労働災害における事業主の不法行為責任を認める判決も増加してきています。
事業主には、日ごろから安全義務を果たすよう努めていく姿勢が求められています。

労働災害を未然に防ぐために、適正な労働災害防止対策を講じましょう

事業主が労働災害を未然に防ぐために、安全管理体制を整えなければなりません。労働災害を防止策する方法としては、安全衛生管理体制の構築」安全衛生教育・健康診断の実施」メンタルヘルス対策の 3 つが挙げられます。

組織化を行うことで安全衛生管理体制を構築する

安全衛生管理体制を築くためには、管理責任者の選任と委員会の組織化が求められます。
管理責任者はとは、次のような者を指します。

  • 安全管理者(事業場の安全について実際に管理する専門家)
  • 衛生管理者(事業場の衛生について実際に管理する専門家。業種を問わず選任が必要)
  • 統括安全衛生管理者(安全衛生についての業務を統括管理する最高責任者)
  • 安全衛生推進者・衛生推進者(小規模事業場で、選任が義務づけられている)
  • 産業医(医師として労働者の健康管理を行う)
  • 作業主任者(特に危険・有害な業務で政令を定めるものについては選任が必要)

管理責任者以外にも、労働者の意見を反映させるための「安全委員会・衛生委員会」の設置が求められます。

定期的な安全衛生教育・健康診断を実施する

事業主は、労働者に対して安全・衛生面における教育をおこなう必要があります。例えば、「機械等・原材料等の危険性・有害性・取り扱い方法」「安全装置・有害物抑制装置・保護具の性能・取り扱い方法」などです。また、労働者の健康状態を把握し、適切な健康管理を行うための「健康診断」も定期的に実施すべきと言えます。
その他にも、疲労の蓄積が認められる労働者に対して、申出がなされた場合には、面接指導を行う義務を持ちます。事業主は、必要であれば就業場所の変更・労働時間の短縮などの措置を取りましょう。

心の病への「メンタルヘルス対策」

近年では、心の病に関する労働災害認定が大きな問題となっています。事業主は、労働者の精神面での健康を保つために、労働環境を整える責任が生じているのです。メンタルヘルス対策では、心の病を患う労働者を出さないように、未然に防止策を講じることが何よりも大切です。
例えば、「相談窓口の設置」「精神負担の大きい管理職の研修」「産業カウンセラーの導入」「ストレス・チェック」などが考えられます。
精神面における労働災害が認められた社員については、「専門家との連携で社員をケアする」「十分な休職期間を設ける」「職場復帰における会社内の安全衛生に関 する規定を整える」といった対策が必要でしょう。
事業主は、メンタルヘルス対策において「情報」の取り扱いに関して最大級の注意を払わなければなりません。心の病に関する情報は、性質上、厳重な管理が求められます。事業主は、個人情報保護法の規定をよく確認し、情報を入手する際は、労働者の同意を得ることに注意してください。

労働災害が発生した際に事業主がしなければならないこと

労働災害により労働者が死亡または休業した場合に、事業主は遅滞なく、「労働者死傷病報告」を労働基準監督署長に届けでなければいけません。労災死傷病報告の届出は、以下の 4 条件の時に必要となります。

死傷病報告書の条件

1)労働者が労働災害により 、負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
2)労働者が就業中に負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
3)労働者が事業場内又はその附属建設物内で負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
4)労働者が事業の附属寄宿舎内で 負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき

労働者死傷病報告は、労働災害統計の作成·労働災害の原因分析・同種労働災害の再発防止策の検討に生かされています。

労働災害防止のための安全管理体制を整える責任がある事業主には、労働者死傷病報告を届出る責任があり、届出を怠っ た場合・虚偽の届出を行った場合、出頭しなかった場合には、50 万以下の罰金刑が課せられます。

*出所*
厚生労働省「労働災害が発生したとき 」