屋根からの転落死の労災事故で遺族と会社との話し合いがまとまらず裁判となった事故

事例概要

ご依頼者60代男性
事故状況屋根から転落した業務災害
傷病名脳挫傷、重症頭部外傷
後遺障害等級併合7級
最終獲得金額3600万円

事故の概要及び障害の内容

本件事故は、太陽光パネルの蓄電池設置の調査のため、高さ6メートルほどの2階建ての屋根に梯子をかけて屋根に登ったところ、梯子から転落し、脳挫傷、びまん性脳損傷、肺挫傷、頭蓋底骨折、頭部打撲という傷病を負いました。

労災事故発生後、依頼者は救急搬送され、到着時には心肺停止状態でした。病院にて心臓マッサージや輸血等が行われましたが、心停止は数回起こり、同日亡くなられました。

ご相談のきっかけ

労災事故発生後、当事者が亡くなられたことで、ご遺族の方が労災事故について調べ、当事務所のホームページをご覧になり、相談にお越しになりました。

当事務所において、まずは本件事故の状況を確認し、ご遺族の方々のご不安に思われている内容をひとつずつヒアリングした上で整理をしていきました。ご相談に来られた際、労災保険の手続き中であったことから、今後どのように進めたらよいのか、会社との対応はどうしたらいいのか、ご遺族の方々はご不安を感じておられました。

弁護士からご遺族の方々に対して、賠償されるべき損害の内容と金額や見込み等の説明をさせていただきました。
ご遺族の方々は、これまでの会社の対応から、弁護士に依頼して交渉を任せた方がよいと考え、当事務所にご依頼されました。

会社は遺族に対して謝罪の姿勢を示していましたが、当事務所からは後に裁判になったり、争いになったりした場合に備えて、遺族を通じて会社側に事故の原因究明と今後の対策を明らかにしてもらうよう、会社への伝え方をアドバイスさせていただきました。遺族を通じて会社側に労災事故の原因を明らかにしてもらうことは、後に裁判になった時に大いに役立つことがあるのです。

会社に対する損害賠償請求(弁護士同士の示談交渉)

本件事故は、太陽光パネルの蓄電池設置の調査のため、屋根に登った際に梯子から逆さまの状態で敷地内のコンクリート地面へ墜落し、その弾みで当該コンクリート地面から約70センチメートル下のアスファルト塗装された敷地前の車道に転落した事故でした。

そのため、雇用主の会社には安全配慮義務違反があると考えられました。そこで、弁護士より会社に対して、従業員死亡に関する死亡慰謝料、死亡逸失利益、遺族慰謝料等の損害賠償請求を行いました。            

会社側にも弁護士が就き、当事務所と会社側の弁護士同士での交渉となりました。当初、会社側は安全配所義務違反は存在しないとの主張をして、お見舞金として1000万円の提案をされました。 提示された1000万円の賠償金額について、遺族の方と当事務所において相談をしたところ、裁判を提起し、会社側の安全配慮義務違反が認められれば、2倍や3倍以上の金額になる可能性が高いと判断されたため、遺族の方も勇気をもって裁判を行いたいとのことになりました。

※本件は被害者の方が高齢であるため5000万円~1億円などの賠償にはならない事案となりますが、様々なシミュレーションをしたところまだ大きく増額の余地があり、示談するなら最低でも2000万円以上と考えましたが会社の提示はその半分にしかなりませんでした。

訴訟を提起(第一審)

訴訟では、会社側の安全配慮義務違反の有無(被害者側の過失)が争点となりました。

会社側は基本的には屋根が乾いていないときは作業を中止するように指示していたが、被害者自身の判断で屋根に上がった後に転倒し、濡れている屋根で足を滑らせた転倒した可能性が高いため、被害者の過失は7割であるとの主張をしました。

これに対して当事務所は会社側の安全配慮義務違反によって高所から転落して脳挫傷により死亡したこと、降雨時には作業をしないように厳命しておくべきところ、そのような指示がなされていなかったこと、会社から要求性能墜落制止器具が支給されていなかったという主張を行いました。

裁判所も当初は、被害者が会社から支給されたヘルメットを被っていなかったこと、小雨の中はしごを登るか否かの判断をしたのは被告であるとし、被害者の過失を5割とする和解案を提示していました。和解案での裁判所の提示は遺族合計で2700万円となりました。示談段階での1000万円からは大きく上昇しました。しかし、遺族も当事務所でも過失5割は不当だと考えましたので、裁判所の和解案を受け入れずさらに追加の主張をすることになりました。

当事務所では裁判所が会社が法令違反をしていることを不当に軽視して過失5割という判断をしていると考えましたので、それまでも会社の法令違反の主張は行っていましたが、改めて、法令違反や行政が示している高所作業の作業方法などを具体的に列挙し、会社がどういう対応をとれば本件事故が防げたのかを丁寧に主張立証しました。

このように和解案の提示後に、さらに3通にもわたる準備書面を提出し、追加の証拠を提出したことにより、判決では裁判所はこちら側の主張に理解を示し、和解案の過失から判決では被害者の過失3割へと変更することに成功しました。第一審の認容金額は3600万円と和解案よりも約1000万円の上昇となりました。

会社側の控訴により控訴審へ

そして、判決では、概ね当方の主張内容が認められることになりました。和解案では被害者の過失5割と提示されたものが、判決では3割と変更されました。そこで、会社側は高等裁判所に控訴を行いました。

控訴審においての主要な争点は引き続き被害者の過失でした。会社側は引き続き被害者の過失は7割であるとの主張を行い、こちらは被害者の過失は0ないし1割であるとの主張を行いました。

控訴審の裁判官から、第一審の過失割合3:7と同様に考えているとの意見がだされ和解協議となりました。遺族側としては第一審と同様の内容でなければ和解はできない旨を伝えたところ、会社側はついに観念し、第一審に若干の遅延損害金を考慮した3600万円での和解をすることになりました。

また、和解条項とし「会社側から被害者に対する支払は、労働者災害補償保険法、厚生年金保険法及び国民年金法に基づく過去及び将来の給付金とは別とする」という和解条項を入れてもらうように要望を行っています。これは将来労働基準監督署から返還を求められた際にその返還請求を拒否できる可能性がある条項となります。

当事務所からのコメント

裁判基準の慰謝料や死亡逸失利益、遺族年金等の獲得は、立証の技術もありますが、本件で最も大きかったのは過失割合の判断です。

死亡事故の場合、被災者本人の話を聴くことができないため、被災者のことをよく知るご遺族の方とも協力し、事故状況の立証・主張が必要となってきます。人の命が奪われる重大事故ですので、時間がかかることが予想されますが、最後までご遺族の方を支援し、適切な解決に向けて尽力していきます。

労災事故のご相談は、ぜひ弁護士法人アジア総合法律事務所までお問い合わせください。