労働災害に遭われた方への補償ってなに?
私たち労働者は、使用者(経営者)に労務を提供することにより賃金を得て生活しています。もしも業務上の事由や通勤において、怪我をしたり病気にかかったり、あるいはこれらが原因で体に障害が残ったり死亡したりすると、その労働者や家族の生活が立ちゆかなくなります。そこで、労働基準法は、 業務上の災害が発生した場合には、 傷病等の原因となった使用者(経営者)に損失を補償するよう義務付けています。つまり、業務上発生した怪我や病気については、使用者(経営者)の責任において補償を行うのが大原則なのです。
しかし、会社にとって、高額な支払いは資金的なダメージです。また、労働者への補償により事業活動が困難になることも考えられます。そこで、こうした事態を防止し、被災した労働者が迅速かつ公正に補償を受けられるよう、業務中や通勤中の怪我や病気については、労働者災害補償保険(通称「労災保険」)という制度が設けられています。
会社への損害賠償請求ってできるの?
他の従業員の不注意によって怪我をしたとき
会社は、会社のある従業員が作業中に不注意によって別の従業員(被害者)に怪我をさせた場合、会社も使用者責任(民法715条)に基づいて、被害者に対して賠償責任を負います。
つまり、会社は、従業員の生命や身体の危険から保護するように配慮する義務を負っており、配慮を怠ったことが原因で従業員(被害者)が怪我をしのであれば、使用者責任に基づいて会社に対して損害賠償を請求して行くことになります。当事務所の経験上、比較的、会社も話し合いの段階から責任を認めることが多いです。
自分一人での作業中に怪我をしたとき
「自分一人で作業中に怪我をした場合」は、 会社に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をすることになります。
ただし、「自分一人で作業中に怪我をした場合」は、「他の従業員の不注意によって怪我をした場合」と比べると、会社が「自損事故であるため会社には責任がない」と請求を拒否するケー スが多いことが現状です。理由は、安全配慮義務違反の内容が定型的ではなく不明確だからです。
例えば、交通事故であれば、相手に怪我をさせたら加害者に損賠賠償の責任があることは常識であると言えます。しかし業務上の安全配慮義務違反については、具体的に何をどうしたら違反になるのか・ならないのかは不明確で、会社も認識していないことが多いのです。また、労災事故については被災者にも一定の過失があることが多いため、会社としては「こんな事故は今まで起きたことがない。被災者の過失によって生じた事故であり、会社にはなんら責任がない」と考えてしまうのです。
では、どのような場合に、会社に対して安全配慮義務違反が問えるのでしょうか。
実際には、具体的な被災状況をお伺いしてからでないと、会社に対して安全配慮義務違反を問えるかどうかは分からないことが多いです。安全配慮義務は、業種、作業内容、作業環境、被災者の地位や経験、当時の技術水準など様々な要素を総合的に考慮してその内容が決まります。当事務所の経験上では、「教育不足が原因で被災した」または「会社の管理支配する場所で、会社から提供された機械や道具が原因で被災した」場合は、比較的安全配慮義務違反を問いやすいと言えます。
さらに具体的に言えば、労働者の安全対策として「労働安全衛生法 」と「労働安全衛生規則」が定められておりますが、その条文に違反するような状況下で事故が起きたのであれば、安全配慮義務違反を問いやすいと言えます。
そのため、例えば、会社の工場で階段を下りている時に滑って転倒したというケースでは、会社に対して安全配慮義務違反を問うことは困難だと思われます(但し、業務中の事故であれば、労災は適用されます)。
なお、重大事故で労働基準監督署が災害調査を行い、その結果、法令違反があるとして是正勧告などを会社が受けた場合や、警察・検察が捜査をして会社や担当者が刑事処分を受けた場合は、高い確率で会社に対して安全配慮義務違反を問うことが可能です。安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の時効は10年です。
不法行為貢任とは?
事故の原因が企業の組織、活動そのものを原因とするような場合や、労働現場の建物・設備に危険があった場合(エ作物責任 民法717条)などに認められることがあります。労災に関して会社に責任追及する際に、法的な根拠となる不法行為責任としては、次の5種類があります。
- 一般不法行為責任(民法709条)
- 使用者責任(民法715条1項)
- 土地の工作物責任(民法717条)
- 注文者の責任(民法716条但書)
- 運行供用者責任(自動車損害賠償保障法3条)
例えば、「同じ現場で作業していた方が落としたものに当たった」というケースはとても多くあります。このような場合、責任は誰にあるのでしょうか。
勿論、落としてしまった本人に落ち度はあります。しかし、労災事故の現場における「責任」は、使用者(=会社)に対して追及され、損害賠償が行われることがほとんどなのです。
これを「使用者責任」(民法715条)と呼び、会社に対して損害賠償を行う際の根拠となります。
しかし、どのようなケースで、どの条文を根拠にするべきか、そしてどのタイミングで請求を行うかについては、労災問題に詳しい弁護士に判断を任せることがよいでしょう。
後遺障害等級認定について
労働災害によって負った怪我が「これ以上治療を続けても、さらに良くはならない」という状態(「症状固定」)になると、「後遺障害(後遺症)」となります。
後遺障害(後遺症)には、最も重篤な1級から、比較的軽度な14級まで「等級」が定められています。そして、それぞれの等級によって支払われる損害賠償金の額が決まっているので、等級がひとつ違うだけで、数百万円から数千万円まで差がつくことが多くあります。少しでも高い等級の認定を得ることが、賠償金を得る上ではきわめて重要です。
個人側(労働者側)の弁護士が数多く存在する中でも、この「後遺障害」の認定を得意とする弁護士は僅かです。労働災害、そして医学に精通した弁護士に依頼することで、より高い後遺障害等級をめざすことが可能になります。
当事務所では、交通事故の後遺障害に詳しい弁護士が被害者の方と病院に同行し、適切な後遺障害の認定を受けられるための後遺障害診断書の記載内容を医師に説明して協力をお願いしています。
「労災隠し」は犯罪です。
労働災害が発生したときは、会社が労働基準監督署に報告をすることが義務とされています。労災隠しとは、労災が発生した際に、会社が労働基準監督署への報告を怠る又は虚偽の報告を意図的にすることです。
会社とのやり取りの仕方がわからない場合
ほとんどの方が労働災害に遭うこと自体初めての経験ですから、ご自身ではよく分からないことが多く、非常にストレスに感じられることと思います。そんな中、会社や保険会社とのやり取りはとても煩雑で殺伐としたものであり、初めて労災に遭われた方がそれを行うのは困難をきわめます。労災被災者の方からも「自分で会社とのやり取りをしなければならないのが面倒」とご相談をいただくことが多くあります。
また、「会社に提示された金額が適正なのか分からない」「知らず知らずのうち、不利な状況に追い込まれているのではないか」といった点で、ご不安な気持ちの方も多いようです。
当事務所の弁護士は、労働災害の賠償についても熟知しており、こういった複雑なやり取りはお手のものですから、ご依頼いただくことでこれらを一挙に担い、スピーディーに進めることができます。